『達者でいなさい。』:マルコによる福音書5章21—34節

12年間、深い苦しみと孤独の日々にあった一人の名もなき女性。彼女は持病を治したい一心で多くの医者に診てもらうが、かえって酷く苦しめられたという。全財産を使い果たすも良くなるどころか病は悪化する一方なのであった。さらに彼女の病は宗教的な事由で「誰とも接触できない」という社会的差別の下にあったと考えられる(レビ記15:25-27)。絶望的状況であった彼女は、イエスのことを聞いて群衆の中に紛れ込む。「彼の服にでも触れば癒される」(28)という一方的に自分の都合を優先した彼女の動機は迷信的にも思えるのだが、服に触れた途端、持病が癒されるのを体感するのであった。イエスはご自身に接触した存在に気付かれ、大勢の群衆が犇めき合う中で辺りを見回された。自分を探しておられる事を知った彼女は、恐れながらも内に秘めていた一切の真実をイエスに打ち明ける。すると彼は「娘御よ、あなたの信頼が<今>、あなたを救ったのだ。安らかに行きなさい。そしてあなたの苦しみから<解かれて>達者でいなさい。(34節:岩波訳)」と、彼女の独善的行為を咎めるのではなく、彼女の必死さに真正面から応じられ、その行動をご自身への一途な「信頼」と受け止められたのだ。誰とも接触も許されず会話もできずにいた孤独な者が、主イエス・キリストと出会った時、真の解放と回復に与ったのである。このお方と出会うためには特別な信仰心や知識、立派さが必要なのではない。どのような過去があっても、たとえ自分は相応しくないと思える者であっても、必死さと真剣さに彼は振り向き、すべてを受け止めてくださる。イエスへの<信頼>があなたを救う。あなたも「安心しなさい。達者でいなさい」との祝福の言葉を宣言されて生きる者となれるのだ。(2020.11.15